「稀代の変哲」とも称され、水曜日のカンパネラ・コムアイなどからも称賛を得るミュージシャン、清水煩悩が対談連載企画『煩算』をスタート。
音楽家、囲碁インストラクター、武蔵野美術大学職員、一橋大学社会学研究科 博士号課程、僧侶、芸術家、俳優、ラジオパーソナリティーといった様々なジャンルの「巷の人」をゲストに迎えつつ、足したり引いたり掛けたり割れたりしながらトークを展開。
来年リリース予定の3rdアルバムやミュージック・ビデオへと繋がるであろう本企画。
清水煩悩が、何を誰と語り合うのか、CAMPFIREで開始された150万円クラウドファンディングと合わせて、是非とも注目してほしい。
2019年12月10日をもち終了した、清水煩悩クラウドファンディング。述べ100名から50万円以上の資金が集まった。
クラウドファンディング終了後も続くこの対談企画『煩算』。第8弾は先日オープンされた渋谷PARCOで収録。本対談の掲載メディアであるradioDTMからラジオパーソナリティー・佐藤ナウを招き、「インディペンデントのあり方」「Spotifyへの参入・撤退」「社会との距離感」から問題と共に生きていくことを考える。
『煩算』第8弾、お楽しみくださいませ。
「ただのバカか天才か」
-二人が初めて会ったのは?
ナウ:radioDTMで、新曲を持ってきてもらう企画「新曲もってこい」をやっていたんですよね。応募形式で、送ってもらった楽曲に対して僕がファーストインプレッションで感想を言いまくるっていう企画だったんです。そこで、煩悩君が『シャラボンボン』を送ってくれて。結果的に、その時の大賞に選ばせてもらった。
煩悩:いえーい!
ナウ:そのご褒美が、radioDTMに出演できるっていうものだったんです。
煩悩:それが2018年の5月、初対面。
ナウ:『シャラボンボン』が番組に送られてきた段階ではまだ「こいつ、誰だ?」っていう感じで。でも結局、ラジオに呼びたくなる人って会いたいかどうかがすごく大事。その意味で、めちゃくちゃ気になった。
たまにラジオでも言うんですけど、「ただのバカか天才か」の紙一重感というか。ただのバカっていうのは言い方が悪いですけど、天然なのか、緻密に考えた上でやってるのかだと思うんです。楽曲を聴いた段階では、どっちかわからなかったんですよね。それが気になった一番の理由。
あとは、歌詞に固有名詞が結構入ってたと思うんだけど、琴線にひっかかりがちなワードだったのかな。この人は音楽好きなんだろうなって。
煩悩:コーナー名の「新曲もってこい!」の文字を見て、「もってこい」がひらがなだったんよね。あれが漢字とかやと、多分送ってない。そのポップさっていうか、学校の宿題みたいな感じで新曲送っていいなら面白いなあって思って。それを思った時に『シャラボンボン』を送ろうって思った。大賞はとると思ってた(笑)。
ナウ:腹立つなぁ(笑)。
煩悩:あの企画、季節ごとにやってたじゃないですか。いくつか聴いておもしろい音楽がたくさんあったんやけど、僕みたいな音楽は無かったんです。だから、「これは新しい椅子を持っていけるな」と。そういう意味では、大賞とるか二度と会わないかどっちかやなって感じでした。僕がやってるようなことをめっちゃ好きか、めっちゃ嫌いかのどっちかやろうなって。
ナウ:なるほどね。
煩悩:それで大賞もらって、「なるほどなあ」って思った。
ナウ:感覚としては近いかもしれないです。僕もどっちかわからなかったから。”めっちゃ好きかめっちゃ嫌いか”っていう表現とまさに合ってて、会ってみて「やっぱり違ったな」っていうのもあり得たかも。
煩悩:会った時のこと未だに覚えてる。駅で待ち合わせやったんやけど、向こうからナウさん一派がONEPIECEのキャラクターみたいに歩いてきて、ナウさんのサイズ感も相まって、最初の印象は「うわー、でけぇー」みたいな、完全にその、見た目の印象が大きかった。
ナウ:ずっと「でかいなーでかいなー」って言ってた気がする。俺としては、最初は掴めなかったかな。ラジオで話したあと、下北沢の「近松」っていうライブハウスで煩悩君が弾き語りしてた時に、たまたま僕もその場にいて。煩悩君が「ちょっと飲みに行きませんか?」って言うから、小一時間くらい飲んだんだけど。めっちゃいろいろ話したよね、ヒップホップの話もしたし。それでようやく掴めた気がする。
煩悩:これ絶対カットしてほしくないんやけど、その時”ナウさんが”ああいうイベントに煩悩君を呼んじゃだめだよねって言ってた!
ナウ:それは確かに言った(笑)。分類するつもりはないけど、それに出てたのって、超ざっくり言うとメインストリームに出ていく感じだったのね。ポピュラリティが大事な人たちだった。でも煩悩君が大事なのはそこではないなと思ってて、だからバランス悪いと思った。共通点は「シンガーソングライター」の肩書きがついてるだけというか。だから、もっと音楽への向き合い方が似ている人たちとやるべきだなって。
煩悩:俺は嬉しかった、それ言われたとき。みんなすぐ勘違いするから言っておくけど、こういう話は批判とか否定とかじゃない。
ナウ:うん、超大事だと思う。単純に居心地があんまりよくなさそうだったっていうのが大きいかな。
煩悩:そうやって飲みに行ったくらいから、ナウさんとは意思疎通じゃないけど、思ったことは言うようになった。
ナウ:思想が強いほうではないから、煩悩君のそういうところはあまり理解できていないと思うけど、音楽的に色んなものを混ぜていたり、色んなものからインプットしているところが、「いいな」ってところだった。シンガーソングライターに最近のブラックミュージックの話をしたときに、話ができる人に会うとやっぱり嬉しいし、同じものをいいと思ってるのはすごく大事。
社会から無視されている感
-クラウドファンディングについては、煩悩君から連絡が入った?
ナウ:radioDTMのホームページはニュースサイトとしても機能していて。そこに『まほう』『リリィ』MVのリリースを掲載したときに、クラウドファンディングのことを知りました。その直後に、この『煩算』の連載のお話をもらった。
煩悩:すぐに連載のOKをもらったから嬉しかった。
ナウ:そんな感じで『煩算』が始まって、それからは、進捗見てます。煩悩君がクラウドファンディングを始めたことには、特別な気持ちはそんなになかったかな。ただ、雪山での撮影っていうのを見たとき、「いいなぁ」って思いました。場所だけ指定されてるMVってあんまりない気がして。普通は雪山で何するのかが大事でしょって考えると思うんだけど、そこで撮るだけでちょっとおもしろいなと思わせる絶妙な場所だと思ったから。
-確かに、リリースを出すか出さないかの直前で「MVの内容って普通書くよね…?」っていう話をした覚えはあるね
煩悩:でも、とにかく雪山で撮りたいんですよ。それ以上でも以下でもなくて。頭の中にはなんとなくあるし、でも行ってみたら変わるかもしらんし、そういうのも含めて作品になればいいなって思ってるから。「雪山でMV撮りたいです。おわり」じゃないかなと。
ナウ:そのワードの強さが、ちょっとバカっぽいと思ったんだよね。そこが良かったのかも。雪山で撮ったらいい作品になるだろうな、とも思ったし。むこうぎしサウンドの映像も見てたから、大自然の中で撮るイメージもなんとなくわかったし、煩悩君のマイブームなんだろうなって感じもちょっとした。
-『煩算』をradio DTMで連載することについては、どう考えてた?
ナウ:これはひとつ大きな理由があって。radio DTMって、最初は独自のサーバーを借りて、そこから音声を配信してたんですけど、今年からAppleの正式なpodcastっていうのに対応したんですね。今年で10周年なんですけど、10年やって最近初めて正式対応した。更に8月に番組をリニューアルして、楽曲を使わなくした。
それまでは出演者の方と独自の契約をしてたけど、インターネットで音楽を聴くことが普通になってきたから、僕らもそろそろ”サブスクリプションサービス”というやつに足を踏み込んで行こうかって。そういうなかで、煩悩君がサブサクから撤退したんです。
煩悩:ナウさんのあの番組って、今はspotifyで番組が聴けるんですよね?そのタイミングで、僕は自分の音楽をspotifyで一旦聴けなくした。何かしらの動きがあって、そういうタイミングが重なったんやなって考えてた。
ナウ:撤退するにしても、参入するにしても、サブスクリプションで音楽を聴くっていう今の感覚にアンテナを張っていたから。煩悩君は、そこに可能性を感じたから撤退したんだろうなって思ったんですよ。その行動ができるのがすごいし、同時に”僕らの番組では絡めないなぁ”とも思った。僕らはspotify上にある音楽を扱っていくことになっていたので、Spotify上に楽曲が無いなら難しいから。そんな時にちょうど『煩算』の話をもらって、そういう絡み方だったらできるなという感じです。ゲストに来てもらう代わりにコラム書いてもらってる的な。
煩悩:クラウドファンディング然り『煩算』然り、大きな制作費があるわけでもなく自分らでやってるものやけど、ナウさんたちもきっとそうやろうなって漠然と考えていて。そういうタイミングで、番組がspotifyで聴けるようになって、僕の音楽が聴けやんくなった。そういうのが重なるなかで、『煩算』をやる時に「あぁ、これはもうradioDTMやな」って思ってすぐに連絡した。ほんとは自分のブログでやるっていう話も出てたんやけど、そうじゃないなって。強引にでも人を巻き込みたかった。
ナウ:僕らも結構すぐに「OK」ってなった。というのも、僕らもそういうのをやりたかったから。別の人が書くものが、僕らのHPに載るっていう。そういう絡み方はしたかったから、タイミング的にもバッチリだったんですよね。
煩悩:たぶん似てるんですよね。DTMはDTMのチームでやってて、俺らも俺らのチームでクラウドやってて、船は違うけどおんなじ海におるみたいな、そんな感じする。
ナウ:あと、奥底でちょっと感じてるのは「相手にされてない感」みたいなのがちょっと似てる気がする。
煩悩:社会に?
ナウ:そう。例えばコラム書くっていう時に、有名な雑誌とか音楽ニュースサイトとかいろんな選択肢があるわけで、でもきっと頼んでも連載できないだろうなと思ったんですよ。そういうのって、ショックだと思う。なんでもそう。音楽を発表したけど聴いてもらえないっていうのもそうだし。
僕らも同じで、DIYでやってるからこそ、外部の人たちに大きく取り上げてもらったことってあんまりなくて。そういうのは悲しいですよね、寂しいというか。そういうところで相互的にやることは正しいと思うんですよ。これが負け犬の遠吠えになるのかは結果次第だし、連載がどれくらい認知されるかによるけど、でも誰かが拾い上げないと、そのコラム自体は本当に自分の中だけでしか表現できなくなってしまう。それは、僕が煩悩君たちだったら「つまんねぇな」って思うから、そういう意味でもやりたいなって思った。
最初はただの暇つぶし
-次はナウさんとradioDTMについて質問させてください
煩悩:radioDTMの最初は2009年?
ナウ:準備はその前の年からやってたかな。
煩悩:最初のコンセプトは何だったんですか?
ナウ:俺は、ただの暇つぶしっていう感じ。金子っていうradioDTMのディレクターが僕の高校の同級生なんですよ。プライベートで遊ぶほど仲良くはなかったけど、一緒にバンドやってて。それと、あと一人オオノブっていう人間がいて、彼らが某ラジオ局のADをやってたんですよね。ADだと好きなことをできないっていう中で、自分たちの想像のはけ口として企画を考えていたと。それが「インターネットラジオで音楽を使った音楽番組をやろう」っていうものだった。
それで、喋り手を誰にしようっていう中で、なぜか俺に。人前で喋ったこともなければ、タレントをやってるわけでもなくて。その時は…何をしてたかな、蕎麦屋でバイトしてたくらいで、それ以外はまじで何もしてなかった。だから「暇だからいいよ」て感じ。何やるかもわからない状態で飯だけ1回食って、「わかりましたー」って言って。それで10年。びっくりだよね。「こんなやるんだ」って思ったもん。
煩悩:思ったよりやりすぎてる?
ナウ:やりすぎてるし、やめられなくなってる。最初のきっかけは友達からの誘いで、そこからはぶっつけでオファーしたり、友達の友達呼んだりとかしてゲストに毎週来てもらって。それこそ、今すごい人気ですけどクリープハイプは出会いの広がりとしては大きいかな。そこと出会ってまた広がってったという感じ。別にね、本当に何もないんですよ、物語とか特にない(笑)。
煩悩:ちなみに、radioDTMやってて悩んでることとかあるんですか?始まりがそうだったら、今も「暇やからいいよ~」という感覚で追ってもよさそうやけど、そんな感じはしない。
ナウ:そこが変わったのはいつだろう。2年くらいやって、MOROHAとかTHEラブ人間とかおとぎ話とかが出てくれるようになって。みんなガチなんですよ、みんなちゃんと音楽やってる、死ぬ気で。そこに対峙する人間として「暇つぶしって言いづらいし、相手に失礼だな」って思い始めた。
音楽云々じゃなくて、自分の道を突き詰めようとしている人たちが毎回来てくれるわけだから、圧倒的に自分の人生にも影響を与えていくわけで。だから、どうせなら真面目にふざけようって思い始めた。そこからモードが変わりましたね。2011年くらいが一番転換期な感じかな。
そこからは、自分たちがバンドやってるような感覚になってきた。煩悩君がこうやって頼ってくれてるとかも、結局は感覚として一緒だからできるわけで。それが、メディアとミュージシャンっていう壁があったらできない。俺はどちらかというと「共演した」っていう感覚があって、出てくれるアーティストのみんなもその感じが強いんじゃないかと。そうなってくると、やっぱり切磋琢磨していこうって感覚になって、ハマっていく。そのあとからは、どうにか上に上がっていこうって思い始めたっていう、そんな感じですかね。
-今年のサブスクリプションへの移行はどういう経緯だったんですか?
ナウ:2009年に始めた頃は、まだApple musicとかspotifyもなかったと思うんですよね。ここ2-3年くらいで、ストリーミングで音楽を聴くことが普通になるまでは、僕らは楽曲もひとつひとつ許諾書を取って、podcastにのせてたんです。それが新しかったんです、やってる人がいなかった。インターネットって権利関係が難しいから、例えばラジオをインターネットで公開したらBGMが全部消えてるんですよ。そういう気持ち悪い感じのpodcastが多かったんですけど、「楽曲を使おう」ってディレクターの金子は考えていて。
そこに可能性を感じてずっとやってたんですけど、今はそうやって聴かなくてもいいようになった。わざわざ許諾を取らないと楽曲を使えないっていう狭い選択肢よりも、純粋にインタビューとして出てもらって、楽曲はSpotifyで聴いてくださいっていう方が今の時代には合ってる。あとは、メジャーデビューして大きな事務所に所属すると、許諾が取りづらくなる。でもアーティスト側は僕らと親密な関係だから出たいって言ってくれる。でも実現しないっていうことが何回もあって。
例えばSuiseiNoboAzっていうバンドがavex行った時も楽曲が使えなかったし、THEラブ人間とか大森靖子さんとかもその時期にメジャーにいたから難しかった。それが嫌だと思ったから、楽曲を使わないインタビューにしようって。そうしてリニューアルした1回目の放送のゲストがメジャーデビューしたMOROHAだったんですけど、ずっと僕らと親密だったから、最初はやっぱりMOROHAから始めたいと言ったら快く引き受けてくれた。
煩悩:いい話。真面目。
ただの遊びを、ちゃんとやる
煩悩:さっきナウさんが言ってた「ちゃんとふざけたい」っていうのを聞いて思ったけど、僕は結構「公私を混同させたい」って思ってて。全部最高の遊びなんですよ。でもオフィシャル感もある、みたいなのが『煩算』とかクラウドファンディングやと思ってて。めちゃくちゃオフィシャルに遊んでる。それも、radioDTMと似てるなって思ってて。
ナウ:確かに似てるかも。その感覚ある。
煩悩:だからこそ自由でおれるし、社会に対する違和感でもあるかなって。
ナウ:すごく簡単に言うと、誰かに言われて始めたものでもないし、いつ止めても文句言われない。悲しがってくれる人はいるかもしれないけど。それを、ちゃんとやるっていうのが大事。適当にやると、本当にただ遊んでるだけですけど、ちゃんとやればちゃんと形になると思う。
煩悩:もう特に話すことない。言ってることが一緒やねんもん。全部腑に落ちるっていうか。一緒の海におるねんもん。
ナウ:同じじゃないけど、同じものを見ているところはあるね。
-煩悩君がさっき質問してましたけど、最近の悩みはありますか?
煩悩:お金は?
ナウ:お金はね、僕ら一切絡んでないんで。ギャラをお渡しすることも基本的にはない。貰ったことももちろんないし…まぁ、マイナスはマイナスですよね。サーバー借りたり、家賃がかかったり。10周年のイベントとか、そういうときだけたまにお金が出ていくっすね。黒字になった記憶はあんまりない。でもそれは、僕らのエゴでしかないから。楽しいイベントをやりたいっていう。苦しいことで言うと…
煩悩:もしかして、悩みがない?
ナウ:うーん…ゲストが決まらない時とか?(笑)
あとは、メディアとして認知され始めると、つまんないとか言われたり。そういうのが嫌だなぁって思う笑。
煩悩:嫌なんや!僕は、ネットに僕のことよくないって書いてくれてる人がおったら、その人にDM送って2ちゃんねるにアンチ掲示板を作ってもらうお願いをしようと思ったこともあって。僕はアンチの人いてほしい。
ナウ:僕もほしいけど、文字から受けるダメージはあるから笑。でも、もちろんアンチも増えてほしい。そう考えると、苦しいわけじゃないよな…やっぱり悩みはないかも。僕より、ディレクターやってる金子とかのほうが多いんじゃないかなぁ。
-皆さん、仕事をしながら趣味でやってるんですか?
ナウ:そうですね。基本的に趣味って言われることが多いし、僕らも説明が面倒なときは「趣味です」っていう。仕事とは言わないかなあ。
-あえて仕事にしていない?
ナウ:難しいですね。そこはあまり考えてないですけど、仕事って…え、逆にどう?音楽を仕事って思ってる?
煩悩:僕は仕事やと思ってる。それしかやってないから。
ナウ:でも”仕事”なのかなって思わない?僕は思うんだよね。
煩悩:”仕事”の決め方は自由やと思ってて、俺は音楽は”仕事”かなぁ。アルバイトをしてもらったお金でご飯を食べてるから、そっちの方が仕事じゃないかって言われるかも知らんけど、自分からしたら生きる糧は音楽からもらってるから。だから趣味と仕事が一緒かな。
ナウ:それでいうと、”仕事”とは言えないっすね。もちろん切り分けてるわけじゃないですよ。民放で番組やらせてもらったりもしたし。それって結局、趣味とという体裁でやってたradioDTMを続けてきた結果、喋り手として起用されていくわけじゃないですか。もちろんそれでお金をもらうし、それが仕事になっていく。でも、、radioDTMが仕事かって言われると、違うかなぁ。
-radioDTMが将来的にそうなっていくとしたら、それはOKなんですか?
ナウ:場合によっては…。お金くれるスポンサーが付いてくれるんだったら嬉しいけど、お金あげるからこういう番組に変えてっていうのは難しい部分もあります。
これは個人の考えですけど、radioDTMでお金を稼ごうとはあんまり思ってない。それ始めちゃうと、「稼げるか稼げないか」っていう選択肢になっちゃう。そうなると「稼げる」選択肢をとるじゃないですか。でもそれとると崩れるものがあるわけで。「稼げない」をとると、じゃあお金どうするのっていう話になってくる。じゃあそもそも、お金っていうものを考える必要がないなって思っちゃう。そのうえで、今やってることを誰かが認めてくれるんだったら嬉しいなって。
-『煩算』の趣旨のひとつとして、好きなことを続けていく上でのその整理のつけ方を、出てくれる皆さんに聞くっていうのがあるんです
ナウ:それでいうと、まずradioDTMをやってるメリットがまず必要になってくると思うんですけど、一番でかいのは人に会えることなんですよね。こんなに人に会う人っていないから。通算550回くらいやってるんですけど…
煩悩:うおおおお。
ナウ:単純計算で500人くらい?は来てるわけで。関係者の方とか加えたら、延べでいうと1000人弱くらい会ってる可能性ありますよね、数えてないですけど。それだけの人たちと、1つの部屋で1時間くらい話すわけじゃないですか。それはやっぱりね、おもしろいです。
煩悩:しかも、人が向こうから「来る」じゃないですか。ナウさんから会いに行ってるわけじゃない。会いたいから来てもらうっていうのが、珍しい気がする。
ナウ:基本「徹子の部屋」スタイルで笑。
結局死ぬから、後悔したくない
-ナウさんがこれからやりたいことは?
煩悩:まずは、あれでしょう。10周年。
ナウ:12月14日に新宿LOFTでイベントをやるんですけど。それが10周年のアニバーサリーなので、そこを成功させることが今の一番の目標。今回イベントに出てもらうのはradioDTMにゲストに来てもらった人たちなんですけど、eastern youthはまだラジオには出てもらってない。でも、どうしてもイベント出て欲しかったからお誘いして。さっきの趣味とか仕事の話じゃないけど、自分たちが昔から好きな音楽が、自分たちの目の前に来てお話をするのもそうだし、自分たちのイベントに出てもらうっていうのも、昔から自然に持っていた趣味と今のライフワークが繋がる瞬間ですよね。これやってなかったらもちろん会えないし、話すこともできない。そこがやっと繋がったイメージ。eastern youthに出てもらうっていうのは、学生時代の自分に「よかったね」って言ってあげたい。
煩悩:やっぱり、続けることに意味はあるんやなって思うし、執念ってやっぱりすごいなって思う。すごいなって思いつつも、ナウさん側からするとそれは普通にこういうことやってるわけやん。やから「すごい」っていうのもおこがましいというか、こういうのが普通になればいいなあって本当に思う。”10周年”みたいに、世の中的には何でもかんでも節目を作りたがるけど、実際毎日そうやけどなあって思う。
ナウ:俺らもね、10周年っていう実感はないんだけど、でもそれくらいしか騒げるところがない。みんなで一緒に騒ごうよ!みたいなのがあんまりないから。僕らも本当は、イベントとかやりたいって思ってるわけじゃなくて。ずっと言ってるもん、めんどくせぇなとか(笑)。だってめんどくさいって思わないなんて絶対嘘だと思うもん。めんどくさいんすよ、絶対。でもその先におもしろいことがあるからやってるだけで、めんどくさいはめんどくさい(笑)。
煩悩:さっきも「早く今年終わんねーかなー」って言ってたもんね。(笑)
ナウ:その先の「来年の頭に旅行へ行こう」っていうのが勝ってるから、俺の頭の中では。
-どこへ行きたいんですか?
ナウ:アメリカ。なんでだろう、行ってみたいんですよ、この歳になって。ロスに行くと思うんですけど。単純に、最先端みたいな場所に何があるのか見てみたい。
煩悩:いいミュージシャンたくさんいますからね。僕もアメリカやったらロスに行きたいかも。好きなミュージシャンとか聴いてて「ロスかなー」って思ったらロスやったっていうの結構ある。多分、街からの影響的な何かがある気がしてる。
ナウ:最近、現地の知り合いも出来て、その人にも会えるし。あと、NBAにハマってるから。なんかあれだな、一般人みたいな内容だな。
煩悩:でもそれもやりたいことのひとつやん。
ナウ:そうだね。NBAを見に行きたい。アメリカに。レイカーズの試合を見たい。
煩悩:僕の分のチケットも取ってもらってね。
ナウ:なんで行く前提になってるの!絶対楽しくないわ、煩悩君と行っても(笑)。
煩悩:なんでよ!絶対おもしろい、元気に川に飛び込んだりするよ。
ナウ:そういうのが嫌なんだよ〜笑、普通にしててよ。
煩悩:こんなん言いながら、2人で飲むときはめちゃくちゃ小声でゆっくり喋ってるから。
ナウ:まぁそんな感じで、海外旅行したい。
煩悩:その辺は僕と一緒。僕も海外でライブしたい。
ナウ:ずっと言ってたもんね。俺は、海外で楽しみたい。あとずっと思ってるのは、「結局死ぬ」っていうのがデカい。
急に重い話かもしれないけど、結局死ぬじゃないですか。でもみんな死ぬっていうことを忘れてる。しかもいつ死ぬかを自分で決められないから、恐怖みたいなのはずっとある。そうなってくると、行動が決まってくる。明日死ぬってなったときに、例えば今日はPARCOに来れたから「PARCO行けたな」って思って死ねるけど、死ぬときに「PARCO行ってねぇな」って思いながら死ぬのは嫌だし。
「あれもやってない、これもやってない」って思いながら死ぬのって苦痛だと思うんだよね。そこを埋めていく作業をしてるだけっていうのはありますね。
だからradioDTMに関しても、ここでやめちゃうと、この先起こりうるおもしろいことを体感しないままやめたんだなって思うのが嫌。誰が来るかわからないじゃないですか、アリアナ・グランデとか来るかもしれないし。来るかわからないけど、やってないと絶対に来ないから。そういうことっすよ、基本的には。可能性をひたすら残しながら生きるだけっていう感じ。
煩悩:俺は「選択肢をつぶさない」ってよくいうけど、それと似てますよね。
ナウ:すごくわかる。だから、お金が大事っていうのもわかるし。
煩悩:例え話やけど、「昔野球をやってた人が野球を辞めても家に木製バットを置いといたら、後に音楽家になって木製バットの音をレコーディングで録ってみるタイミングが来るかもしれない」みたいなことはすごく多い。捨てちゃうとあのバットの音はレコーディングには入れられないみたいなこととかって結構あるから。
ナウ:今の煩悩君って、住む場所が決まってないでしょ。それもすごくいい、うらやましいもん。住む場所が決まってるって、超限定されるじゃない。本当は地方に住んでもいいし、海外に住んでもいいんだけど、できないわけですよね。なんでできないかって、お金とか仕事とかの話じゃなくて、勇気がない。
いざ「できるかも」って思った時にすぐにいけるような感覚を持ちながら生きていればいいだけの話っていうか。できるだけ空っぽな状態でいたいっていう願望はあるかな。
煩悩:ほんまに、やりたいことやってたらやりたいこと増えるし、やりたくないことは減る。そういう意味で、ずっとやりたいことやってこって。
ナウ:それを真面目にやるのもそうだし、ずっと思ってるのは「適当にやろうね」っていいう。真面目すぎると適当さがなくなっちゃうから。ずっと、真面目に適当にやってる。
アフタートーク:もしゾンビ映画の登場人物なら
ナウ:たまに考えるんだけど、もし自分がウォーキングデッドみたいな、ゾンビだらけの世界になったり、そういう映画の登場人物だとしたら、みんなでワー!キャー!言いながらある程度活躍して、終盤のいいタイミングで襲われるキャラが良いなと思う。
煩悩:そのワー!キャー!は主人公チームなん?ゾンビ世界の?
ナウ:そう。
煩悩:僕は違うよね、たぶん。
ナウ:違うね。違う大陸にいる人っていうイメージ。「ここになんかいるって噂聞いたけど…」みたいな、コードネームついたやつ。ミスタートークマンみたいな(笑)。俺はそれを探したいタイプ。「怖くねー?」みたいに、ワー!キャー!言い合いたい。なんだろう、俺は何を求めて生きてるんだろう(笑)。
煩悩:僕がその世界にいたとしたら、とにかくラジオで全世界に発信してて聴いてる人がいると信じてるから生きている、みたいなキャラだと思う。だから、電子機器が使えなくなったみたいな展開が映画の中であったとしたら、主人公チームの誰かが「そういや電気使えなくなったなぁ」って言って、家の中から死んで動かんくなった俺の足だけ見えてるみたいな。(笑)
ナウ:それを僕は見つけたい。「ご愁傷さまです」って言いたい。そんなもん。基本全部ギャグ。みんなピリピリしすぎ。全部の語尾に(笑)ってついてると思ったら楽なんだけどな。僕は全部(笑)ってつけておきたい、このインタビューの真面目な話も、「時代が変わったじゃないですか(笑)」って。こいつ全部適当に喋ってるな、って思われるくらいがいい。radioDTMもそう。ふざけた中に核心がある方がハッとするしね。核心っていうのは意外とそういうところにあるよね、っていう気はする。
Interview|Yamaguchi Nanako
Edit Assistant|Baba Satomi
Photographer|Naito Manabu,Yamaguchi Nanako
〜〜〜〜〜〜〜
残12日!【清水煩悩3rdアルバム&MV制作】奈良県天川村レコーディング!雪山でMVを撮りたい!
https://camp-fire.jp/projects/view/198665
〜〜〜〜〜〜〜
Profile
ラジオパーソナリティー
佐藤ナウ(Sato Now)
音楽Podcast番組「radioDTM」パーソナリティー
これまでにTBSラジオ「インディーズナビ」「ガリンペイロ」などでもパーソナリティー/作家を担当。
radioDTMはポッドキャスト配信のほかに、イベント開催やMV制作など活動は多岐にわたる。
稀代の変哲
清水 煩悩(Shimizu Bonnou)
1992年生まれ、和歌山県和歌山市出身。2016年から活動をスタート。水曜日のカンパネラ・コムアイ、奇妙礼太郎、石川浩司、坂本龍一、長嶋りかこらが賞賛する音楽家。現在は2019年9月20日に103歳でこの世を去った“台湾独立運動のゴットファーザー”こと革命家・史明氏が開業した池袋の中華店・新珍味に居住している。
2016年11月、J-WAVEラジオSPARKにて水曜日のカンパネラ・コムアイに「天才じゃない?」と賞賛される。その後、2017年3月に自主制作盤『みちゅしまひかり』を発売、同年には奇妙礼太郎主催ライブ〈同じ月を見ている〉に出演。
2018年4月にP-VINE流通協力のもと、2ndアルバム『ひろしゅえりょうこ』がSNEEKER BLUES RECOREDSから全国リリースした。同年12月には小泉今日子がポップアイコンを努めるFODオリジナル音楽番組「PARK」でTV初出演を果たす。
2019年1月、下北沢 風知空知にてMusicVideo先行上映会&トークショーと題して製作関係者が一同に会したイベントを開催。その後、同年の秋に奥多摩の森で「まほう」「リリィ」の2曲を収録、むこうぎしサウンドのプロジェクトとして公開される。現在は新アルバム・MV制作のために150万円クラウドファンディングを実施中。それと連動し、10月からradioDTMの公式サイトで対談企画『煩算』を連載している。同月、坂本龍一がナビゲートするスペシャル・プログラム。2か月に一度、オンエアしているJ-WAVE「RADIO SAKAMOTO」にて、奥多摩の森で2曲30分一発録音されたライブビデオ「まほう」「リリィ」が優秀作として紹介され、坂本龍一や長嶋りかこが賞賛のコメントを贈った。
Twitter: https://twitter.com/shimizubonnou
Instagram: https://www.instagram.com/shimizubonnou/
Conversation Archive
『 煩算 』+7【前編】内藤学(むこうぎしサウンド代表・映像ディレクター)
『 煩算 』+7【中編】内藤学(むこうぎしサウンド代表・映像ディレクター)