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クラウドファンディング連動企画 ▽池袋の中華料理屋に住むミュージシャン清水煩悩の対談連載企画『 煩算 』+7 内藤学(むこうぎしサウンド代表・映像ディレクター)

「稀代の変哲」とも称され、水曜日のカンパネラ・コムアイなどからも称賛を得るミュージシャン、清水煩悩が対談連載企画『煩算』をスタート。

音楽家、囲碁インストラクター、武蔵野美術大学職員、一橋大学社会学研究科 博士号課程、僧侶、芸術家、俳優、ラジオパーソナリティーといった様々なジャンルの「巷の人」をゲストに迎えつつ、足したり引いたり掛けたり割れたりしながらトークを展開。

来年リリース予定の3rdアルバムやミュージック・ビデオへと繋がるであろう本企画。

清水煩悩が、何を誰と語り合うのか、CAMPFIREで開始された150万円クラウドファンディングと合わせて、是非とも注目してほしい。

9月に開始された清水煩悩クラウドファンディング終了まであと3日と1時間半。12月10日の最終日まで毎夜連続で対談記事が公開!


第7弾は、清水煩悩と共作を続け、フォロワーには馴染みのあるむこうぎしサウンドの代表・内藤学をゲストに迎えた。最後の4日間、今回のクラウドファンディングと連なった様々な出来事をインディペンデントである彼らが、前・中・後編と制作/暮らしについて考えていく。

それでは『煩算』第7話〈前編〉、お楽しみくださいませ。

 

内藤学が、清水煩悩と出会うまで

-今更ですが、内藤君の自己紹介をお願いします

内藤:映像のディレクターをしています。会社に所属したのはちょうど1年くらい前で、最近はWEBに出す広告の仕事とかが多いけど、それまでは半カメラマン半ディレクターみたいな感じで、その前はフリーランスとしてカメラマンをしてた。バイトしながらじゃないと生きていけない感じ。で、なにか爪痕を残さないといけないなと思って思いついたのが、ライブを撮ること。そのタイミングで、結構悩んだけどフリーランスを一度辞めました。それは今思えばいい選択だったかなって思う。

 

-映像に関わるようになったのはいつから?

内藤:撮るようになったのは大学で映画科に入ってからなんだけど、その大学を選んだのは、現役のときに受験に失敗して、宅浪してたから。現役の時に目指してたのは、理工学部の物流学科1本。

煩悩:なんで?

内藤:やりたいことが何もなくて、勉強してなくて、学費の安い国立大学に行けって親に言われて。で、塾の先生が選んだ一番学費の安い国立大学の学部を1本だけ受験したけど、落ちた。浪人中に東中野のミスドに毎日行ってたわけよ、親の金で。おかわり自由のコーヒーで粘りながら、これはいよいよ「こっちが選択しよう」と思って、文字を書いたり絵を描いてみたりしたいと思ったけど、その時はアニメが好きだったのかな。映像系の学部に行ってみようと思って、実技のない日大芸術大学映画学科を受験して、それで受かりまして。

 

私大の芸術学部って高いじゃない。全部を払うのは無理だけど、学費を稼ぐために始めた飲み屋のバイトで酒を飲みすぎて単位を落とし、留年するか大学を辞めるか、という選択で、大学を辞める方を選んだ。その居酒屋で半年くらいバイトしてたんだけど、このままじゃだめだなと思ってアニメの制作会社に入って2年半、制作進行から制作デスクへと早めの昇進を遂げたものの、心が追いつかなくなって辞めた。そこから、カメラ触りたいなと思って。

煩悩:それが何歳くらい?カメラで撮りたいなと思ったのは。

内藤:アニメの制作会社辞めたのが23歳とかの時だから、それからかな。

煩悩:俺はまだ音楽活動始めてないときやあ。

内藤:ほとんど実務経験がないまま始めてるから、そりゃ食えないわけですよ。ただまぁ会社に所属するのは違うなみたいな状況だったから、パチンコ屋でバイトしながら、みたいな感じ。

煩悩:その時も人の映像撮ってたの?

内藤:人の映像はほとんど撮ってないのよ。1本、30分くらいの自主映画を撮ったんだけど、だめだなと思ってそのままお蔵入りにしちゃったんだよね。予告編を2本くらい作って、よし編集するぞってなったときに、全然だめだと思って辞めちゃった。ちゃんと準備をして撮ったのはそれくらい。
その当時に仕事でカメラマンとして呼ばれるって言っても、ほんとに知り合いレベルとか。アマチュアに毛が生えた程度なわけ。1年半前くらいまでその状態やった。今の会社はみんな同い年くらいで、俺みたいにゼロベースで始める人が多かったから、今は全然やったことのない業務を毎日やって、スポンジのごとく吸収してる。1-,2年前と、考え方もやってることも全然違う。

 

嘘っぽいな、と思ってた


-じゃあ、次は二人の馴れ初めから。

内藤:二人の馴れ初め、もう7万回くらい話してる気がするけど。

煩悩:12万回くらいじゃない?

内藤:12万回か(笑)。下北沢basement barで友達のライブを撮影しに行ったときが初めての出会いです。撮影前に、「今日はどんな人と対バンするの?」って聞いたんだよね。友達のバンドはシティポップ系だから、そういうバンドが多いのかって聞いたら、「大体そうだけど、この清水煩悩っていう人は、ひとりだけギター1本でやってる」って紹介されて。その時点で、まぁ変な名前だし、印象に残ってた。

そのあと、煩ちゃんのライブを観てたんだけど、MCで「腕組んでる人は外してください」って言ったの。俺は目の前に座って、腕組んで聴いていて。まぁ腕は解かなかったんだけど、見たことないパフォーマンスをする人だなと思った。その日のライブが終わったあとに、清水煩悩の物販のところに行って、「内藤って言うんですけど、今度のライブ撮りに行っていいですか?」って言ったんだよね。その時煩ちゃん、なんて言ったか覚えてる?

煩悩:全然覚えてない、何やろ。

内藤:第一声ね、いいでも悪いでもなく、「ハンサム!」だったの。

煩悩:ええええええ。うそー。全然覚えてない(笑)。

内藤:俺はバリバリにおべっかモードだったから「あざす!」って返して(笑)。その後にいいですよってなって撮影しにいったのが、上野恩賜公園だったと、記憶しています。

煩悩:俺はだいぶ記憶が違う。下北沢lagunaが初対面やと思ってた。

内藤:それだいぶあとだよ。上野恩賜公園で『ビタミンC』の映像を撮ったでしょ。

煩悩:そうやそうや。

内藤:あれが、2回目。

煩悩:最初は結構内藤くんのことを、疑ってて、どうしようかなあみたいな感じ。東京ってそういう人いっぱいおるから、また挨拶程度に言ってくれてるんやろうなあって思ってた。恩賜公園で初めて僕の映像を撮ってくれたときもまだ疑ってた。撮ってくれた映像見て、なんていうか「いいけど、普通」みたいな感じやった気がする。1stアルバムに入ってる『ビタミンC』っていう曲のライブ映像を撮ってくれて。あれ、結局作ったんやっけ?

内藤:公開するまでは作り込んでない。流れたんだよね。

煩悩:そうよね。たぶん、そんときはハマらんかったんやと思う。だから最初は疑ってた。「この人は大丈夫なんかなあ」って。その時期は特に人間関係みたいなものに気を張ってて、全部寄せ付けないみたいな、そういうモードのときやったしね。ちゃんと見定めるぞー!って。

内藤:それは感じてた。それがあって、次はもう『大天国』のMVを撮らせてほしいっていう話かな。

煩悩:『大天国』のMV撮らせてってなったときに、一回飲みましょうってなって。新宿で飲んで、そん時も疑ってた。頻繁に連絡取り合ってたってわけでもなかったし…。で、『大天国』撮りたいんやけどって言われて。なんで撮りたいってなったん?

内藤:俺が曲を聴いてて、「こういうの撮りたいな」ってイメージが湧いたの。

煩悩:そうか。二人で飲んでたんやけど、その時内藤くんが黒ホッピー飲んでて。僕はホッピー飲んだことなかったから、一緒のやつ飲んでみようかなって思った。それが、僕から歩み寄った一歩目やから覚えてる。同調すると意識が共有しやすいかなあって思って。

内藤:第一歩目はホッピーだったのね(笑)。

 

煩悩:そう。で、『大天国』のMVについて、こういう絵が取りたいとか、哲学とか思想っぽいこととかもそこで話して…けどそれでも、やっぱり疑ってた。

内藤:その時はね、MVの内容は最終的に「女の子が飛び降りて死ぬ」みたいなのを話して、それが結果的にハマってなかった。

煩悩:そう。なら、俺が一度脚本を書くよってなったんです。その後、わりとすぐ本を送った気がするんですよね。ストーカーっぽいのがいいって送ったんです。

内藤:そうそう。コンテみたいな、絵で送られてきた。最初と最後こんな感じがいい、みたいな。

煩悩:あーそうや。あれ、送られてきてどうやった?

内藤:こんな感じかぁって。最初と最後、部屋の電気のスイッチを触る手元で終わる、みたいなコンテで。

煩悩:出てくる人を殺したくなくて。そういう曲じゃないと思ってたから。内藤くんも、そういう曲じゃないっていう気持ちは一緒やったんやけど、表現の仕方が違った。今思ったけど、大人になったんじゃない?僕ら。成長したんやと思う。あの頃の空気と今は全然違うなあって思う。

内藤:あの時、俺はバイトしながらフリーでやってて、だから結構「早く撮らなきゃ」っていう気持ちだった。銭さん(※むこうぎしサウンド・カメラマン)とも、知り合ってはいたけど一緒に仕事したりはしてなかったから、撮影も自分でしていたし。

 

内藤:その後、9月に会社に入ったんだよね。で、その年の12月に『大天国』のMVを撮った。

煩悩:あれ?俺ら撮影の日まで一回も会ってないないんやっけ?…あ、わかった!撮影の前に、美術をやってくれたちーちゃんとかと顔合わせしてるんや。

内藤:そうそう。その時はまだちーちゃんがやるって決まってなくて、一回飲もうってなって。

煩悩:で、僕がその場で「この人でいいよ」って言った。ワンルックで。ちーちゃんとは、コムアイちゃんの美術やってたとかいう話したりして。

内藤:「もののけ姫」のアシタカとサンの話を二人がしてたのをよく覚えてる。あれが、ある程度お互いが歩み寄ってしっかり話した最初かなぁ。

煩悩:そうかなぁ。内藤くんのことを疑ってたのは、嘘くさいのかなって思ってた。映像自体も言い方あれやけど、偽物か本物かみたいな。でも結局『大天国』を撮るまでの間に僕自身が内藤君のことを「嘘っぽくないな」って感じたタイミングがあったんやろうなぁ。この人やったら一緒にやっていきたい、みたいな。成長したんやな、その期間中に。

内藤:クラウドファンディングでこれだけやってるからそれはそうだけど、『大天国』を撮影した当時はここまでの信頼関係はなかったような気がする。

煩悩:そうやね。まだ、ただのアーティストと監督っていう関係というか。仲はよかったけど、実家の話はしないみたいな。興味がないから。今はするもんね。僕たちが出会ってから『大天国』を撮るまでは、こんな感じかな。

森で音が鳴った


煩悩:そのあと、下北沢の風知空知で『大天国』の上映会をやった。

内藤:俺は、自主製作であれだけの作品を作って、しっかりと披露の場があるっていうことをやって、ネクストステップにいった感があった。

煩悩:どうせやるんやったら、僕らの為になる方がいいなあと。それで、みんなで映像見るのとかおもしろいなあって思った。

内藤:あのMV、上映会の朝まで作ってたもんね、機械のトラブルでほぼ編集をやり直すことになってさ。一回作ったやつはあったから、それをもとにまったく同じ編集をやり直したうえで、手を入れてくことになってしまった。そういうのもあって、激しい流れだった。

煩悩:そうかあ。そのあとは何したっけ?

内藤:奥多摩の撮影?

煩悩:いや、そのあとに『シャラボンボン』のMV上映会があった。内藤くんも映像撮ってくれてたから来てもらって、その時のライブで『まほう』って曲をやったんよ。それを見た内藤くんが「なんかやばいことになってるな」って言ってた気がする。『大天国』のMV撮った時からはチェンジしてて、ギター1本じゃないし、エフェクター踏んでるし。僕的には、今の形のプロトタイプというか、初期段階なんやけど。その頃はちょこちょこ連絡とってたんよね。でも奥多摩の映像の話はまだしてなかった気がする。

内藤:そうだねぇ。シャラボンボンの映像公開がいつくらい?

煩悩:今年の5月くらいかな。で、ちょっと経ってから「森でとりたいんやけど、どう?」って言ってくれた。

内藤:その上映会での演奏みて、「うわー、清水煩悩やば、全然違う話になってるわ」と思って。それで『まほう』もすごく好きになった。森で何か撮りたいねって話は銭さんとすでに話してたから、じゃあ煩ちゃんに森でやってもらおうってなって。それでお願いをした。

煩悩:僕もちょうどそのくらいの時期に、環境音とかに意識が行きだしてるときやって、森で撮る話を聞いておもしろそうやなって思った。30分くらいの映像をとるって言われたんやけど、内藤くんから「とりあえず『まほう』はやってほしい」っていわれて。

-それは内藤くんからのオーダーだったんだ

煩悩:そうそう。「30分一発録り?森で??」って思った。でもそれやったら4,5曲やるんじ面白くなくて、じゃあ2曲やなって。『まほう』を一発ゴリゴリやって、もう一曲は『リリィ』

内藤:俺も、最終的な今の完成系と、森でやりたいってぼんやり思ってた時のイメージがほぼほぼ一緒で。普段はきちんと準備をして、予算があるうえで準備をしていくっていうのが俺の仕事だけど、そのまったく逆で、要素だけ集めてきて、あとはどうなるかわかりませんっていう感じだった。

 

おもしろいのが、『まほう』っていう曲にはライブで惚れて、『リリィ』も煩ちゃんのSNSか何かで聴いてたんだけど、「この2曲で大体30分だな」って漠然と思ってた。当日まで煩ちゃんと内容の話は全然せずに、30分一発録りのプレイの大変さをまったく考慮しないまま現場にいき、高低差20mくらいのところを重い機材をもって歩いて。で、準備をしてるときに、ほんとにこんな感じで日常会話をしてる中で、「煩ちゃん、今日って2曲?だよね?そうだよね。」って、それくらいのコミュニケーションだったの。そういうのも含めて、最終的に思った通りの形になったっていうのが結構新しい体験だった。

煩悩:確かに、俺もあれは新しい体験だった。とにかく内藤くんが1日中嬉しそうでちょー楽しそうだった。俺がリハーサルでくっそ爆音出したんよ。たぶん、『まほう』のオケがガーン!ってなる部分で、内藤くんがライブで聞いたときはあれがなかったから、初めて目の前でやったんやけど。そしたら内藤くんが「森で音が鳴ったーーーーー!」って言って(笑)。

内藤:ちょーピッタリな音だったんだよね。川が奥からこっちに向かって流れてるんだけどさ、その感じで音がね、森から俺に向かって聴こえてきて。

煩悩:事前にロケ地の写真だけもらってたから、それをイメージしてバランスとか組んでたんやけど。目の前に川があるから、川とぶつかるような下から鳴る感じの音じゃなくて、もうちょっと上の方で軽くなぞる音の集合体になるように意識した。でも軽すぎやんと、奥の方までちゃんと音が届くようにやらなやなって思ってて。結構スタジオ入ってたな。30分っていう時間にあわせてストップウォッチで時間計ったりとかして。

内藤:じゃあ多分ドンピシャ。こう、木があって、渓谷みたいになってるから、水のところだけ抜けてるんだよね。その幅で風みたいなのが流れていくっていうようなイメージがドンピシャだったんだよね。今思い出しても楽しくなってくる。

煩悩:で、映像の編集があったよね。ミュージシャンとしてはかなり辛い環境で演奏した。超小さいスピーカーでやったし、僕も音のことには意識がいってたけど、ミキサーをその場で瞬時に用意するとかはできんくて、やりながら「ああ、これきついなあ」って思ってた。練習はしてたし、自分がやりたいことはなんとなくあったからそれをやっただけなんやけど、あとあと映像のあがりの音を聴いたら、まあ、やばくて。だから編集は結構時間かかった。

 

内藤:一発目のラフミックスを聴いたときは、あの環境でプレイをするっていうのはこういうことかって結構思った。

煩悩:武田君っていう、サウンドエンジニアの人と一緒にミックスして。僕の中ではどうしたらいいかっていうのはなんとなくあったから、最終的には僕がやってしまったけど、みんな「それで!」ってなって、映像が完成したっていう感じかな。それがあって、今までは「内藤くん」っていう人と一緒に映像をやってたけど、内藤くんが「むこうぎしサウンドっていう名前にしよう」って言って、それでむこうぎしサウンドが生まれた。

内藤:そうそう。そういう枠組みをまったく考えないで森に遊びに行った、という。

煩悩:最高やったなあ。

坂本龍一、長嶋りかこらが賞賛のコメントを贈った、
奥多摩の森でむこうぎしサウンドにより30分2曲一発録音された清水煩悩「まほう」「リリィ」

内藤:それが俺的にはクラウドへの繋がりにもなってるんだけど、結局自分が普段撮っているものとは別のアプローチで作ったものがすごくよくできて、それのリリースを打つよっていうときに、その時に初めて森でやったことを言語化した。
後付けというよりかは、俺が感じていた「良さ」の正体をきちんと言語化するっていう一連の流れがあった。とにかく未知だったんだよね、撮ることも、撮ったあとに言語化するっていうことも。俺ってこう思ってたからそもそも森に行きたかったし、煩ちゃんに出てほしかったんだなっていうのがわかって。クラウドの話が出てきたのはそのタイミングじゃない?

煩悩:その時、現実と虚構みたいな話を内藤くんがしてて、それがすごくわかるし、映像も思ってたより良かったわけよ。これはおもしろいねって。じゃあ、もうちょっとやってみません?って。それで、次にやるならやっぱり『まほう』かなって話をして。
どこがいいかなあってなったときに、雪山か、ぼろぼろの落ち葉だらけの退廃した山って言ったら、内藤くんも「雪山いいね」って意見が一致して、雪山で撮ることになった。そこで初めて「予算どうしようか」って話をして、クラウドが出てきた。あれ、どっちから言ったんやっけ?

内藤:クラウドやろうぜって言ってくれたのは煩ちゃん。そもそも、作るにあたってお金を調達してやりたいよねって言ったのは俺。手弁当でやっていくは色々としんどいよねって。この煩算っていう対談企画は、俺としてはそういうところをみんなに伝えたくてやってる。映像撮りますって言ってクラウドやってる人も割といるじゃない。俺も何度かやろうとしたことがあって、でも今ひとつ勇気が出ないとか、失敗するのが怖くてやってこなかった。
でも、森の映像を撮ったあの数ヶ月で自分にも変化が起きて、煩ちゃんがクラウドやろうって言ってくれて、これはもう勢いで「やろう」って言った。あのときは、煩ちゃんから後日「クラウドじゃない?」ってメッセージが来た気がする。

煩悩:たぶん、確認作業みたいな。「クラウドしかないよね?」っていう感じ。きっとそこまでの信念とかはなくて、「クラウドってどんな感じなんですかね?」みたいなテンションやった気がする。僕のほうがクラウドに対しては不安があったんじゃないかな。毛嫌いじゃないけど。でも2人の会話からはもうその方法しか思いつかんかった。めっちゃ覚えてるのは「クラウドだね」ってなった時はまだちょっとふわっとしてて、そのときに内藤くんが「こういうのってみんな失敗するからやりたがらないよね」って言われて、それで、絶対クラウドでやろうって思った。それを今僕とやろうとしてくれてるのかと思って、じゃあやるべきやって。それくらい俺は背負えるぞみたいな感じ。

内藤:煩ちゃんが住んでた新珍味でお金の計算とかしてね。

煩悩:思ったより予算がかかる。ここは詰めれるなぁとか言いながら予算立てした。そこからはもうあっという間やったよね。僕が文章書いて、CAMPFIREに登録した。

 

クラウドファンディングの達成率

-クラウドファンディング、始めてみてどう?

内藤:正直なことを言うと、クラウドファンディングが集まっても集まらなくてもどっちでもいいなって思ってる。

煩悩:超正直。本当は言いたくない(笑)。このタイミングでこういうこと言ったりすると「諦めんなよ」って話になりがちやと思うけど、僕は初日でそれを思ったんよなあ。プロジェクトが始まった日に、成功しますようにって神社にお参りへ行ったんやけど、その帰り道にいきなり支援が入った。そん時に、「これもしかして、結構とんでもないこと始めてしまった気がする」って思って。そもそも150万がどうこうって話じゃないかも、もっと大きなものが動いてるぞって。
僕らの目的としては、映像撮るのとアルバム作るのが目的やし、実際このクラウドって、目標額いかなくても支援分の金額は貰えてそれで作ることになる。みんなにはアルバムもDVDも届くし、映像は見れるしっていう話。そう考えたら、今ここでこういうことをやったことにすごく意味があるんやなぁって。そういう意味で、集まっても集まらんでもどっちでもいいっていうことやんなあ?

内藤:そうそう。

煩悩:俺は集まってほしいけど(笑)。

内藤:集まってくれないとね、いろいろと困ることはあるんだけどね。

煩悩:あと、思ったよりもペース悪いなあって思った。結構練ったというか、全部計算したんよね。画用紙5~6枚使って、いくらのリターンが何人分集まったらいくらになって、みたいなの全部計算したんやけど。思ったより進まんなあっていうのが感想。他の人のクラウドとか見ると、後半で一気に増えるっていうのが多いから、きっと今回もそうなんやろうけど…。

内藤:最初と最後に集中しますよ、期間が短い方がいいですよって最初に運営の人からセオリーを教えてもらったじゃん。最初と最後はわかるんだけど、なんで短いほうが達成率がいいんだろうって、あんまりロジックが分からなかったんだけど、長谷さん(『煩算』+2)と対談したときにやっぱり今ある数字を見て、ボーダーを越えるかどうかのぎりぎりのラインにいる人はたくさんいて、あとは背中を押してくれるかどうかみたいなことだなと思って。だから俺は、期間は最長でやった方がいいんじゃないって思った。

煩悩:期間が短いほうがいいっていう理由のひとつは、プロジェクトのオーナー側がムードを保てないっていうのがあるんやと思う。俺は期間中にやることはたくさんあると思ってたから、長いほうがムードを保てると思ってできるだけ長くしようと思った。それで、最終日を決めるときに、12月10日(世界人権デー)にした。始まった後としては、大枠で見るとリターンどうこうじゃない気がしてきたし、思ったよりペースが悪いなあっていうのがある。

内藤:変に希望もないし、変に絶望もないっていう感じがする(笑)。

煩悩:そもそも、もう失敗してないと思ってて。これを始めた後に最初に思ったことかも。

内藤:確かに、さっきも言った通りやる前は怖いって思ってたけど、今はもう怖くない。

煩悩:クラウド始まってからもう70日くらい経ってるんやけど、この70日クラウドやってなくて何もしてなかったと思ったらめっちゃさみしいなあって思って。だからもう、失敗してない気がする。

内藤:よかったなって思ってる。やった方がいい。

煩悩:それがみんなにとってクラウドって形じゃなくてもいいと思うんよなあ。どうかなあ?って思ってることを実際にやってみたら、上手くいったかどうかの答えが手に入るわけじゃなくて「成功」の見方が変わるっていうか。視点が変わる。

内藤:クラウドに対しては感情が凪すぎて、あまり言葉が出てこないかも。良くも悪くも、凪だなって思う。

煩悩:僕は、朝起きてまずクラウドの進捗確認してるから、考えることが割と癖づいてるかも。どのサイトからどれくらいアクセスがあるのかとかも見る。だからあまり凪っぽくはない。激動してるけど落ち着いてるだけって感じかな。

内藤:でもこの期間が終わるのがさみしい気はするかな。

煩悩:本当のゴールは、映像とアルバムの完パケ。まだ飛び立つ前やし、本当の助走段階。まだ飛行機のエンジンを積んでる期間やと思うから、そのエンジンはたくさんあったほうがいいと思うし。本当に目指してるところには届かんかもしれないけど、そうなった時でもいいものを作れる気がしてる。150万円が実際なくても、このみんなやったらいいもんできてまうんやろうなあって。その辺がアイデアやと思う。

 

内藤:クラウドファンディングの文章中に「投資」って言葉を使っちゃダメなんだよね。

煩悩:そう、法律というかルールがあるみたい。でも確かに「投資」ではないなあと思う。あと「挑戦」でもない、ニューチャレンジっていう感じはあんまりしない。「髪型をショートヘアにしてみよう」っていう感じじゃなくて、切ったらショートヘアになってたみたいな感覚。ほんまにやりたいことやってるんやろうなあと思う。無理してない感じ。関わってるチームのみんなの目的地が似てるんやと思う。同じ場所じゃないとしても。どこの目的地についても「ここいいねぇ」ってなる気がする。

内藤:そうね。わかる気がする。

煩悩:いい意味で、よくなかったら「違う」って言い合える関係性でもあるしね。僕も内藤くんも言いたいのは、「活動する」とか「表現する」みたいなことに対して、みんなどう考えてる?ってことなんやと思う。奥多摩の森の映像の内藤くんのコメント見た時も思った。

クラウドファンディング公開時の内藤学コメント

内藤:あと俺、奥多摩の映像撮ったあとくらいから顕著に思うのが、公私を混同していきたいなってすごい思ってて。

煩悩:あーーーーーー!わかるよ!すごくわかる。

内藤:俺は割と、食いぶちとやりたいことを二分化して喋ってるけど、それがそもそも間違ってるなって感じがするんだよね。

煩悩:遊んでることが仕事になってたら最高なんよなあ。

内藤:無意識にそれを区別してしまうから、それをやめる!公私を積極的に混同していきたい。クラウドはそうだなぁと思う。

煩悩:奇妙くんがメッセージをくれたんやけど、「遊びを仕事にしていきたいって思ってたら、煩ちゃんもう遊びながら仕事してた」って言ってくれて。嬉しかった。

(中編に続く)

Interview|Yamaguchi Nanako

Edit Assistant|Baba Satomi

Photographer|Naito Manabu

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残12日!【清水煩悩3rdアルバム&MV制作】奈良県天川村レコーディング!雪山でMVを撮りたい!

https://camp-fire.jp/projects/view/198665

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Profile

映像ディレクター
内藤学(Naito Manabu)

1992年東京都中野区出身。日本大学芸術学部を中退後、テレビアニメーション業界を経て、映像制作会社でディレクターとして活動する傍ら、インディーズでの映像制作にも取り組む。
清水煩悩との第1作目、「大天国」official music videoは国内外のコンペティションに出品中。今夏より、「むこうぎしサウンド」と題したプロジェクトを開始。最近の趣味は散歩とスーパー銭湯、家の掃除。

 

稀代の変哲
清水 煩悩(Shimizu Bonnou)

1992年生まれ、和歌山県和歌山市出身。2016年から活動をスタート。水曜日のカンパネラ・コムアイ、奇妙礼太郎、石川浩司、坂本龍一、長嶋りかこらが賞賛する音楽家。現在は2019年9月20日に103歳でこの世を去った“台湾独立運動のゴットファーザー”こと革命家・史明氏が開業した池袋の中華店・新珍味に居住している。

2016年11月、J-WAVEラジオSPARKにて水曜日のカンパネラ・コムアイに「天才じゃない?」と賞賛される。その後、2017年3月に自主制作盤『みちゅしまひかり』を発売、同年には奇妙礼太郎主催ライブ〈同じ月を見ている〉に出演。
2018年4月にP-VINE流通協力のもと、2ndアルバム『ひろしゅえりょうこ』がSNEEKER BLUES RECOREDSから全国リリースした。同年12月には小泉今日子がポップアイコンを努めるFODオリジナル音楽番組「PARK」でTV初出演を果たす。

2019年1月、下北沢 風知空知にてMusicVideo先行上映会&トークショーと題して製作関係者が一同に会したイベントを開催。その後、同年の秋に奥多摩の森で「まほう」「リリィ」の2曲を収録、むこうぎしサウンドのプロジェクトとして公開される。現在は新アルバム・MV制作のために150万円クラウドファンディングを実施中。それと連動し、10月からradioDTMの公式サイトで対談企画『煩算』を連載している。同月、坂本龍一がナビゲートするスペシャル・プログラム。2か月に一度、オンエアしているJ-WAVE「RADIO SAKAMOTO」にて、奥多摩の森で2曲30分一発録音されたライブビデオ「まほう」「リリィ」が優秀作として紹介され、坂本龍一や長嶋りかこが賞賛のコメントを贈った。

Twitter: https://twitter.com/shimizubonnou

Instagram: https://www.instagram.com/shimizubonnou/

Conversation Archive

『 煩算 』+1 田渕徹(音楽家)

『 煩算 』+2 長谷俊(囲碁インストラクター)

『 煩算 』+3 田代友紀(俳優)

『 煩算 』+4 アンジー、スティーブン(大学院生)

『 煩算 』+5 稲田ズイキ(僧侶)

『 煩算 』+6 石川彩香(武蔵野美術大学職員)

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