「稀代の変哲」とも称され、水曜日のカンパネラ・コムアイなどからも称賛を得るミュージシャン、清水煩悩が対談連載企画『煩算』をスタート。
音楽家、囲碁インストラクター、武蔵野美術大学職員、一橋大学社会学研究科 博士号課程、僧侶、芸術家、俳優、ラジオパーソナリティーといった様々なジャンルの「巷の人」をゲストに迎えつつ、足したり引いたり掛けたり割れたりしながらトークを展開。
来年リリース予定の3rdアルバムやミュージック・ビデオへと繋がるであろう本企画。
清水煩悩が、何を誰と語り合うのか、CAMPFIREで開始された150万円クラウドファンディングと合わせて、是非とも注目してほしい。
第5回目となる今回は、僧侶でありライターもつとめる稲田ズイキをゲストに迎える。収録場所は二人が初めて出会った街・新宿。「二人の共通点は煩悩」「クラウドファンディングは布施の精神」「解像度」「環境からアイデアを得るタイプ」といった様々なクエスチョンを仏教や人生から考える。
『煩算』第5話、お楽しみくださいませ。
二人の共通点は”煩悩”
煩悩:まずは僕らのなれそめですかね。
ズイキ:煩悩君、去年のNEWTOWNってイベントに出てたでしょ? 僕も同じイベントに編集者として出てたんですよ。普段はミュージシャンと同じイベントに出ることがないから、珍しさもあって出演者を見てたら”清水煩悩”って名前に目が留まったんです。いい名前だなあと。
煩悩:そのあとに僕がDMしたのか。ズイキさんが出てたのは知ってたけど、そこでズイキさんが見つけてくれてたのは知らんかった。
ズイ:そのあと、『ブッダ常夏キリスト富士山』のMVを見て、僧侶なのかと思った。名前が煩悩だし、坊主っぽいし、それでミュージシャンやってる面白い人がいるんだなあって。いつか一緒に何かやりたいなって思ってたら、半年後くらいにDMがきて。
煩悩:当時、「煩悩」でTwitterを検索すると、僕とズイキさんの二人だけ出てきてたんです。当時、ズイキさんは名前に「煩悩クリエイター」って入ってたから。しかも生年月日が1992年で「同い年や!」と思って。本当はズイキさんが早生まれで、一つ上やったけど。
いきなりDMするのはすごい嫌やから、送る前にズイキさんの活動とか色々見てたら、なおさら興味が湧いてきた。だからその気持ちを正直に言おうと思って、「会いたいんですけど」ってDM送った。
ズイキさん:そう、本当に「会いたいんですけど」って文面だった。ちょうどDMが来た日、近畿大学の入学式でつんく♂さんにインタビューしてたんですよね。タレントのぱいぱいでか美ちゃんがライターで、僕が編集者だったんだけど、でか美ちゃんはつんく♂さんにCDを渡して自己紹介をしてて、渡せるものがあるのっていいなあ思ったんです。かといって、お経を渡すわけにもいかないし。
僕はハロプロファンで、つんく♂さんにめちゃくちゃ憧れていたのに1ミリも近づけなかった。一方で、同い年のでか美ちゃんはCDを渡して俺よりも二歩も三歩もずっと先に居るのがってすごい悔しくて。あー音楽やりてーとか思ってたら、DMが来たの。
煩悩:DM送った2ヵ月後くらいに、新宿で会いましたよね。行こうと思ってた凡(ぼん)っていう名前の喫茶店を目指してたんやけど、そこが開いてなくて。それで、他に入ったらめっちゃ高い喫茶店だった。
ズイキ:そうそう、コーラ800円とかでね。
煩悩:初対面で「めっちゃ高いですね、ここ。」って話してたら、なんか打ち解けた。
−お互いの第一印象は覚えてますか?
煩悩:木魚持ってきてたから、その印象がある。その日は、初対面の会話が面白そうやったから録音したくてマイクとか持って行ったんやけど、事前にズイキさんから木魚持って行きますねみたいな話はなかったと思う。
ズイキ:そうだっけ、当日に僕がいきなり持ってた?
煩悩:そう。僕と初めて会うからって理由で、木魚持ってきてくれたのが、さすがやなあと思ったし、すごい嬉しかった。
ズイキさん:煩悩君の音楽を聞いたりビジュアルを見てて、その場の刺激的なものを吸収して楽しめる人なんだろうなと思ったから、サプライズとまではいかなくとも、その場でバンって出したほうがいいかなって。
煩悩:カバンからドン!って、でかめの木魚が出てきて。高い喫茶店で優しい音が鳴ってた。ぽんぽんぽんって。
ズイキ:あと、いま『僧侶、家出する』ていう家出企画を幻冬舎の連載でやっていて。簡単に言ったら、家を捨てていろんな人の家に泊まらせてもらうってのなんです。それが始まる前で、企画だけ提案してる状態だと伝えたら、煩悩君が「僕、そういう生活してましたよ」って。
煩悩:先輩と後輩が切り替わった瞬間的なね。
ズイキ:そう(笑)。「コインパーキングがオススメだよ」って言われて、そのときこの人すげえって思った。公園は?って聞いたら「公園は人が無目的にたむろするから危ない。コインパーキングは目的があって人が来るから、ヤバいやつがいても何もされない」って言ってて。
煩悩:コインパーキングは、車止めが枕になるしね。あとなんか地熱が温かい。
クラウドファンディング自体は布施の精神に近い
-煩悩君がクラウドファンディングを始める事について抵抗とかはありましたか?
ズイキ:僕はミュージシャンがクラウドファンデングをやることって、今までもあることなのかな?と思ってて。「アルバム作ります」、とか。だから、CF自体はぜんぜん抵抗もないし、煩悩君はもっと大きな面白い事をしてるなあって。
煩悩:プロジェクトを始めてみて知ったことがあって。クラウドファンディング自体を知ってる人は「最近はミュージシャンってみんなやってるから、埋もれないようにするの大変だね」っていう人もおるし、知らん人は「へ~、そんな方法でやるんや」みたいな人もおって、結構分断してるなあって感じる。
−ズイキさんはご自身でもクラウドファンディングをやっていたんですよね?
ズイキ:これまでで一番大きいのは、新卒で入った会社の同期とオタクカルチャーメディアみたいなのをやってたわけですよ。その取材で、アニメを作っている京都精華大学の学生に出会って、その映像に感動して「大きな会場でこの映画を上映しませんか?」と提案したんです。それでクラウドファンディング をやったりした。それは2ヵ月で150万円くらい集まったかな。たまたまクラウドファンデングに詳しい人が取材した人のなかにいて、そういう人に話聞いたり、CAMPFIREの人とかにも話を聞いたりして。
煩悩:期間も値段も同じくらいですね。ズイキさん、この連載にうってつけのゲスト。
ズイキ:クラウドファンディング自体は仏教的に言ったら、布施の精神に近いですよね。
煩悩:うんうん、そうですね。
ズイキ:普通、お店がモノを売ってそれを購入するけど、クラウドファンディングの場合は支援してそれを購入する。同じ結果だけど、そこに対してお金を使うマインドがかなり違ってて。仏教は資本主義には遠い価値観にあって、布施は自分の修行としてお金を払う、つまり執着から逃れるために自分で差し出すっていう修行なんです。
煩悩:気持ちを貰うみたいな感じ。それがぼくらのクラウドファンディング やったらアルバムとかDVDになってるけど、なんかそのお金を渡すことでいい気持ちになるみたいな。
ズイキ:功徳(※)をお互いにシェアしあう感じ。だからすごくクラウドファンディングは僕のやってる仏教業界でももっと広がってほしい仕組みなんです。
※功徳(くどく)…世のため、人のためになる行い
道が狭まったおかげで、解像度が上がった
−ズイキさんの今の活動に至るまでの経緯を教えてください
ズイキ:いろいろあったからなあ。
煩悩:じゃあ15才は?
ズイキ:15才はロボットアニメしか見てない!ロボットアニメが好きすぎて、初めてできた彼女をフってしまった。彼女と会ったりしてるより、ロボットアニメを観たいから。…煩悩がやばい(笑)。
煩悩:ズイキさんのルギアの記事(※)もやばかった。
※『ルギアをオカズに抜き続けて人間の道を踏み外しかけたが、友達のおかげで助かった話』
ズイキ:昔から妄想しがちだった。最低だけど、高校生まではそういう目に見えないイメージにとらわれがちで、目の前の人をないがしろにしてしまう性格だったの。あと、僕は覚えてないけど、小学校1年生まで母親の母乳を飲んでたんですよ。めちゃ長いのよ。普通、乳離れって何歳くらいです?
煩悩:3歳くらい?
ズイキ:そうそう、3年長く乳飲んでるんですよ。でも恥ずかしいって気持ちもあったみたいで、友達が家に遊びに来て、でも母乳飲みたくなったら「帰って!」って帰らせて、帰った瞬間に母親のおっぱい飲むみたいな。煩悩まみれだな(笑)。
煩悩:20才くらいは?
ズイキ:20才は、大学のサークルでロボットアニメ研究会を作ってた。特にふつうの大学生で、なにもしてない。でも脚本家になりたくて、映画の脚本だけ書いてた。物語を作るとか、映像みたいなことをずっといいなーと感じてて、高校3年生くらいからずっと映画の脚本書いて、たまにコンクールに応募してた。心のなかでは「遊びくらいでいいか」と思っていたけど、書くのが楽しかった。そん時までは、ぜんぜん僧侶じゃないの。
煩悩:たしかに。
ズイキ:寺生まれなだけで、ぜんぜんお坊さんになりたくないって感じ。普通は大学1年生から修行に行って、修行が3年かかる。でも、大学入りたての楽しいときに修行したくないじゃないですか? 僕は浪人もしてるから余計キャンパスライフに憧れがあって、そこから丸坊主にしないといけないとか嫌じゃないですか。だから、イヤだイヤだって拒み続けて…でも大学三年生の冬から行き始めた。
−そこで転換があったんですね
ズイキ:いや、ただの現実逃避。なんか行きたくないけど、そこだけは行けって両親が言うから。それまでは、ずっと現実逃避してて。「あー、創作の世界はいいなー」ていうのをずっと考えながら、じわじわ迫りくる僧侶にならないといけない現実を逃げてた。それにあらがうことなく、まあいっかって感じで僧侶になろうとしてた。
煩悩:受動的ですね。なんか目の前にあるものを跳ね返してない感じが。その後、25才くらいやったら、もう今と同じ状態って感じですか?
ズイキ:25歳は何してんだろう。修行を始めると3年かかるから、学生期間を伸ばして大学院に進学して。でも、大学院2年生の春くらいで僧侶の修行が終わって、これからは僧侶になるのかみたいな感じと、うちの寺は小さな寺だから、就職もしないといけなくて。だからWEB系の会社に就職も決まって、進路が決まり始めてきたのね。「僕はそういう人生なのか」ていうのが見え始めてから、結構動き出した。そこで、単位は全部取ってあと修士論文を書くだけのタイミングだったけど、もっとおもしろいことしたほうが人生楽しそうっていう漠然とした感覚で、大学院を中退したの。で、いろいろしました。インドに1ヵ月行ったり。
煩悩:その話も初対面の時しましたよね。俺もインド行ったから。
ズイキ:あ、そうだインド行ってたのか。あとはそのとき、『DOPE寺』っていうお寺ミュージカル映画も映画監督の友達と撮ったんです。出演しているのはうちの家族と檀家、で。檀家って、江戸時代から続く寺のファンクラブなんです。僕、撮影のときの様子を携帯の待ち受けにしてて。檀家のおばちゃんなんだけど。
煩悩:うわ、いいなあ。いい写真。
ズイキ:こういう人たちが出演する、お寺ミュージカル映画で。僕と父親がラップでバトルしたりするみたいなシーンがあったりして、それがSNSでバズったの。そのときに「あ、なんか僧侶でも面白いことできるんだ」みたいな。自分が思い描いてた世界も作れるんだなと思って。
煩悩:ロボットアニメが好きな自分と僧侶の自分が、合体した感じ。
ズイキ:そうそう。漠然と表現やクリエイションをしたい気持ちをモヤモヤ抱えてた人が、僧侶という職業やWEB系の会社に入社して道が狭まったおかげで、道の解像度が上がった。
煩悩:解像度問題はいっぱいあるよなあ。
ズイキ:なにそれ?(笑)あるの?(笑)
煩悩:音の話になってしまうけど、最近ASMRっていう耳で音を楽しむみたいなの出てて、なんでこういうのが世に出たんやろうと思って考えてて。多分、スマホが普及してきて、みんなの視力が低下してきてる。テレビでは4Kとかが出てきて、これ以上映像キレイになるの?って。LEDの電光掲示板もそう。裏を返せば、あれぐらい映像をバキッとしないとみんな反応できやんくなってるんかなあって。だからASMRも対処法的な感じで、耳のコンテンツが世に出てきたんかなあとか考えてた。ある意味、最近は色んなモノの解像度が低い気がする。解像度を高くモノを捉えたり考えたりできる人とかが減ってるんかなあとか思ってた。
ズイキ:目が肥えすぎて目がしんどくなって、次は耳にその解像度がいっちゃったってなってる感じね。
煩悩:そうそう、今って極端な話が多いでしょ。悪い人を叩くのもそうで、逆の考え方ができなくなってる。一個の選択肢だけで、やりまくるだけやってそこがグチャグチャになったら、掃除もしやんと、次の所をすぐ探してそこを汚しにいく、みたいに視野が狭い感じ。
ズイキ:そうね。てかさ、初めて会う前はさ、清水煩悩っていうアーティストは自分の感性とかノリだけでやってるのかなって思ってたのよ。会ったら、この人すごい理論詰めてません? 会った時それにびっくりした。今の話も聞いて、すっげえ考えてるなって。
煩悩:考えるのが好きなだけですよ。
ズイキ:改めて音楽とかも聞き直してみると、すごいなんかやっぱり色々練られてる。
煩悩:めっちゃ恥ずかしいやん。
ズイキ:でも、考えてるでしょ? あのむこうぎしサウンドと奥多摩の森で撮ってた『まほう』『リリィ』の映像もよく観てるけど、音の切り方や、音をどう重ねていくかがめちゃくちゃ計算されてる。かつ、哲学的なメッセージを踏まえてるのかなって。観てると、こういうことを表現したいのかなっていうのがちゃんと分かるから。分かるように作ってると思っていて。だから、「あ、この人すげえな」って思う。
煩悩:…。
ズイキ:やっぱ「変哲」なだけではないな、って感じがする。それも踏まえて「変哲」なのかもしれないけど。
煩悩:じゃあそういうことにしときましょう(笑)ズイキさんは、今みたいな言葉がパッってでてくるから、色んな考え方を常に準備してる人っていう感じ。そこが好き。
ズイキ:嬉しい。
煩悩:DMを送った時のことは覚えてないけど、きっと大丈夫やっていうか、思ったことを言い合えるなあってなんとなく思ってDMしたんやと思う。気配を感じて送ったというか。
ズイキ:この人大丈夫そうっていう漠然とした感覚ってあるんだと思うし、そういう感覚はすごい大事だなって思う。
僕らは環境からアイデアを得るタイプ
煩悩:アウトプットは種類が違うけど、僕らは環境とかからアイデアを得るタイプやなって、話を聞きながら思った。中華屋に住んでるのもそうやし、お寺とか、「住所不定」みたいな話が出ちゃうとことか。社会に即しすぎてると絶対出ないですよね。
ズイキ:ある意味、柔軟なんじゃない?だからこそ、吸収して自分の糧にして出せるから、違う環境に行ったり、捨ててみたりするんじゃないかな。
煩悩:俺は、潔癖なんかなって思うけど。
ズイキ:え、潔癖なん?
煩悩:いや、なんかわからんけど。例えば、普通にマンション借りて住めばいいのに、そうじゃないことしてるから。いい意味で、こだわり持っててそうしてる2人って感じ。
ズイキ:なるほどね。まぁ俺は部屋汚いけどね(笑)。
煩悩:俺も部屋は汚い。自分が身を置いてる場所からインスピレーションを受けて行動するタイプというか。思いついたりしたりしてる感じが似てるかなって。インディペンデント的なことで言うと、これは、いい事ですよね。
ズイキ:うん。それが一番いい。
煩悩:そういうところにいい意味で頓着なく、でも潔癖でこだわるところは持ちつつやってるのはいいことやなって思う。
ズイキ:仏教でいう「縁起」的な生き方だよね。仏教ってすべてのものがつながってて、このコーヒーがあるから自分が生きてる、みたいなそういう世界観。1つのものに固執するんじゃなくて、あらゆるものと繋がって生きる生き方。
煩悩:そうや、ズイキさんに言ってなかった話がある。家系たどったらお寺やった。
ズイキ:え!
煩悩:なんかすごく家系的には遠いけれど、東北の。あと、俺の両親は音楽やってないし、父親は鬼束ちひろ、母親はピーナッツとサザンオールスターズが好きで、パッと見は俺を構成してるものではない。でも俺のおじいが、都々逸(※)をやってた人やった。歌手っていうより、町でお祝い事とかがある時におじいがその人の家に行って歌ったりする。
※都々逸(どどいつ)…江戸時代に成立した七・七・七・五の音数律に従う口語の定形詩。三味線とともにお座敷や寄席で披露されることが多かった。
ズイキ:えー!おもろい!だからやっぱさ、煩悩君は仏教モチーフが多いかなって思って。ブッタとかわかりやすいけど、煩悩っていうのもそうだし、色んなところにつながっていて今があるんじゃないかな。
僧侶クリエイティブレーベル
煩悩:この対談企画ではみんなに「やりたいことありますか?」って聞いてるんですけど。僕はアルバム作りたい、MV作りたいって思ってるから、クラウドファンディングやってるんですよ。クラウドファンディングがあるからミュージックビデオ作ろう、じゃないんですよね。アルバムを作りたいから、クラウドファンディングをやってる。ズイキさんにも、そういうのがあるかなと思って。
ズイキ:実は過渡期で、いっぱいあるんですよ。今は3つあって、1つは、「そもそも寺とは何か」っていうのを問いたい。そもそも僧侶の自分たちがわかっていないから、まずは寺を全然関係ないもので作るの。で、何が寺なのかを確かめるっていう実験企画を準備してる。
2 つ目はまだどうなるかわからないですけど、「死」とどう向き合うのかがやはり僧侶としてのテーマ。今家出していて、たまたまその日に連絡が入って泊めてもらう、みたいな生活してると、生きてるか死んでるかっていうのは、まじで紙一重だなって感覚があるんですよ。たまたまが重なったら自分がトラックに突っ込まれるかもしれないし、放火されるかもしれないし、とか考えたら、やっぱり「死」というものを日常的に感じるのはすごく大事だなと。生きているが故に、そこからは逃れられないじゃないですか。
仏教では「生死一如(しょうじいちにょ)」ていって、生と死は裏表でそれは切っても切り離せない、境界線なんて実はないっていう感覚があるんですけど、現代は「死」に対して不誠実だと思うんです。お葬式とかお墓とか、そういう既存のテンプレートがあって、そこにはめるだけ、みたいな。この前、自分のおじいちゃんが亡くなってお葬式に出たんです。そこで初めて葬儀される側に立ってみて、この枠組みでは何も死に向き合えないなとわかった。それでちゃんと死をデザインしたいなと思って。
3つ目がクリエーションの領域。わかりやすくいうと、僧侶って慈悲、つまり他人の喜びを自分の喜びとするような心を持ちなさいっていう集団だと思うんです。資本主義でお金を稼ぐっていうマインドの人が多い中、僧侶は希少で尊い存在だなって。そういう思想で駆動する人たちが社会の中で活動できるような仕組みを作りたいんですよ。僕は自分で書けたり作れたりするから、自分1人は何とかできるんですけど、僕より若い世代に全然出会えないから、ブランドとかレーベルみたいな感覚で集団化した方がいい。その方が後続が出てくるし、一緒に盛り上がってムーブメントを起こせるし。
煩悩:3つもすごいなぁ。
ズイキ:その3つで今ぶわーって動いてるから、ちょっと体1つじゃ足りないよ、みたいな感じなの。
−色んな人を巻きこんでいくものが多いから、人をまとめるのが大変そうですね
ズイキ:そこだね。でも家出して、色んな人の家に泊まらしてもらったりとかしていく中で、別に最大を選ぼうとしていなくて、「君とならもう会ってるしいけるでしょ!」みたいな人を今ちょっとずつ集めてる感じ。そっちの方が上手く行く気がする。東京事変みたいなすげぇバンドじゃなくて、たまたま小学生の時に同級生だったバンド。「ご縁」を大事にした方がうまくいくと思うの。
煩悩:それはすごいわかる。最大を目指すわけじゃないっていうの。だから携帯の契約を最近切りました。よく考えたらいらんかった。
ズイキ:ストリーミング配信も全部やめたって言ってたもんね。そこまで切れるのはすごいよ、徹底してる。執着を断ち切るんよね。
ズイキ:いやでもやっぱねー、近いんだと思う。こういう人が近くにいてくれて嬉しい。
煩悩:なんか一緒にやりたいですね。
ズイキ:一緒に寺やろうよ。トレーラー型の移動する寺とか作って、寺でアメリカ縦断ツアーとかしない?(笑)
煩悩:地球が寺になる。
ズイキ:そう!そうするとおもろいのよ。地球ってラテン語で「TERRA(テラ)」だもんね。それが今の目標。トレーラーで地球を縦断。
煩悩:やろやろ。
Interview|Yamaguchi Nanako,Naito Manabu
Edit Assistant|Baba Satomi
Photographer|Zenitani Yuuki
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残24日!【清水煩悩3rdアルバム&MV制作】奈良県天川村レコーディング!雪山でMVを撮りたい!
https://camp-fire.jp/projects/view/198665
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Profile
僧侶
稲田ズイキ
僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。集英社よみタイや幻冬舎plusでコラム連載、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。
https://twitter.com/andymizuki
稀代の変哲
清水 煩悩(Shimizu Bonnou)
1992年生まれ、和歌山県和歌山市出身。2016年から活動をスタート。水曜日のカンパネラ・コムアイ、奇妙礼太郎、石川浩司、坂本龍一、長嶋りかこらが賞賛する音楽家。現在は2019年9月20日に103歳でこの世を去った“台湾独立運動のゴットファーザー”こと革命家・史明氏が開業した池袋の中華店・新珍味に居住している。
2016年11月、J-WAVEラジオSPARKにて水曜日のカンパネラ・コムアイに「天才じゃない?」と賞賛される。その後、2017年3月に自主制作盤『みちゅしまひかり』を発売、同年には奇妙礼太郎主催ライブ〈同じ月を見ている〉に出演。
2018年4月にP-VINE流通協力のもと、2ndアルバム『ひろしゅえりょうこ』がSNEEKER BLUES RECOREDSから全国リリースした。同年12月には小泉今日子がポップアイコンを努めるFODオリジナル音楽番組「PARK」でTV初出演を果たす。
2019年1月、下北沢 風知空知にてMusicVideo先行上映会&トークショーと題して製作関係者が一同に会したイベントを開催。その後、同年の秋に奥多摩の森で「まほう」「リリィ」の2曲を収録、むこうぎしサウンドのプロジェクトとして公開される。現在は新アルバム・MV制作のために150万円クラウドファンディングを実施中。それと連動し、10月からradioDTMの公式サイトで対談企画『煩算』を連載している。同月、坂本龍一がナビゲートするスペシャル・プログラム。2か月に一度、オンエアしているJ-WAVE「RADIO SAKAMOTO」にて、奥多摩の森で2曲30分一発録音されたライブビデオ「まほう」「リリィ」が優秀作として紹介され、坂本龍一や長嶋りかこが賞賛のコメントを贈った。
Twitter: https://twitter.com/shimizubonnou
Instagram: https://www.instagram.com/shimizubonnou/
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