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クラウドファンディング連動企画 ▽池袋の中華料理屋に住むミュージシャン清水煩悩の対談連載企画『 煩算 』+1田渕徹(音楽家)

「稀代の変哲」とも称され、水曜日のカンパネラ・コムアイなどからも称賛を得るミュージシャン、清水煩悩が対談連載企画『煩算』をスタート。

音楽家、囲碁インストラクター、武蔵野美術大学職員、一橋大学社会学研究科 博士号課程、芸術家、女優、ラジオパーソナリティーといった様々なジャンルの「巷の人」をゲストに迎えつつ、足したり引いたり掛けたり割れたりしながらトークを展開。

来年リリース予定の3rdアルバムやミュージック・ビデオへと繋がるであろう本企画。

清水煩悩が、何を誰と語り合うのか、CAMPFIREで開始された150万円クラウドファンディングと合わせて、是非とも注目してほしい。

第一回目となる今回は、音楽家の田渕徹を招き対談を実施。対談では「ふたりの馴れ初め」、「150万円という目標金額」、「ミュージシャンはお金の話をするべきじゃないのか」、「素晴らしきM」、「人はお金を出した瞬間から自分ごとになる」、「どこの誰かもわからないあなたに贈る詩」、「東京」、「新しいことへのハードル」…など、様々なクエスチョンを二人の音楽家の視点から考える。

それでは記念すべき『煩算』第1回、お楽しみくださいませ。

 

煩悩君は、着々と自分のマスを埋めていくような人

−−二人の最初の出会いは?

田渕:和歌山かな。あれはいつやろう。

煩悩:音楽をこうして一人でやり始めて、最初の2、3回目くらいのライブだったから2017年くらいやと思います。

田渕:煩悩君は、会うたびに印象が変わるし、他人に興味がなさそうなのが好きなんよ。自分は自分、で進んで行くというか。だから、インタビューされているけれど、本当はそんなに興味ないんちゃうかな?って思うもん。

煩悩:そんなことないですよ!自分は自分、人は人ってちゃんと分けてるだけです。押し付けないようにしてる。でも、 ふだんミュージシャン同士ってこういうお互いの印象とかを改めて話すことないですね。

田渕:みんなシャイやからな。だから、クラウドファンディングを始めたことについても、そんなに驚きはなかった。煩悩君は、着々と自分のマスを埋めていくような人。確実なゴールが見えてて、それに足りないものや進めていくべきマスを一つずつ埋めていきながら進んでいると思う。俺は、けっこう面倒くさがりやから、そのマスを飛ばしちゃったりするんだけど。

煩悩:癖というか、半年や一年単位で目標を立てて、それに対しての進捗を出すことはしてます。去年こう言ってたのに、結局できてないやんてこともあるし。それをしていると、目先のやりたいことも決まってくる。失敗したときの方が勉強になるけど、失敗しすぎて、本当にもう懲り懲り。

 

ミュージシャンはお金の話をするべきじゃない?

−−今回のクラウドファンディング、どんな第一印象を持ちましたか?

田渕:そもそも、どのタイミングでクラウドしようぜってなったの?

煩悩:監督の内藤くんと予算立てしたとき。クラウドでプロジェクトをリリースする2、3週間前やったかな。アルバム制作やミュージックビデオをあるレベルまで持っていくのにどれくらい費用がいるのか?っていう話になって。

田渕:俺はクラウドファンディングが何たるかをわかってないから、一般の人と近い感覚持ってると思うけど、正直言うと”150万円”って「そんないる?」って思ったよね。

煩悩:それは俺も思ってます。何なら自分が一番びっくりした。ほとんどのミュージシャンが、金銭的なことで選択肢を潰しちゃってると思うんです。例えばですけど、仲のいい人にレコーディングしてもらって費用を下げようとか。あと、みんなの家から近いスタジオで練習に入っちゃうとか。けど、それって「選択」じゃない。もっと選択肢が俺にはなんかあって、「あのスピーカーがいいからあそこのスタジオに行く」というみたいにスタジオ行って練習してるんです。例えばですけどね。

田渕:それはめっちゃいい考えやんな。

煩悩:そうやって選択肢を勝手につぶさないようにしたかった…。みんなには「僕がこういうことをしたいと思って試算した150万円から出来上がったもの」を受け取ってもらいたい。世の中的にはまだまだイメージしづらいことかもしれやんけど、表現が資金面とかに押し潰されていくのはあまりにも悲しすぎる。だからこそ、やりたいと思ったんです。

田渕:それがクラウドファンディングできっちり伝えられたらええよな。

煩悩:そのクラウドファンディングの伝えたい部分を、なるべくリアルな話し言葉で感じてもらいたくて、対談企画をやろうと思って。例えば、まだ相談中やけど、かかる費用の内訳を全部出してもいいと思うって俺はみんなに言ってる。こういう発想もクラウドファンディングならではの手法やなと思ったりしてます。

田渕:俺は出してもいいと思う。何にどれくらいかかるのか、概要としての情報があったらおもしろい。色んな意見があると思うけど、それは人それぞれ路線が違うんやから。お金の話はせんほうが夢を与えられるって考える人もいっぱいいるけどな。

 

−−ミュージシャンはお金の話をするべきじゃない、という流れがあるんですかね。

田渕:そうそう。でもそれは、人と場所で変わること。例えば煩悩君でも、BLUE NOTEに出てたらお金の話はしてほしくない。みんながお洒落して音楽を聴きに行くようなところだから。でも、そうじゃないところで戦おうとしてるんやったら、概要ぐらい載せてもいいと思うけど。ちなみに、『大天国』のミュージックビデオは予算どれくらい?

煩悩:実際にかかったお金で8万円くらい。女優さんはノーギャラで出てもらって、機材も、監督の内藤君の会社のやつを使って。結局、こういうことになってしまってるんです。誰が悪いとかじゃなくて、頭の中に予算がこびりついたりしてそこをアイデアでカバーしていく感じ。

田渕:そうやったんか。あの女優さんめっちゃよかったけどな。

煩悩:いやあ最高でした。

−−鬼気迫る演技でしたよね。

 

清水煩悩=素晴らしきM

田渕:そうだ、聞きかったんやけど、クラウドファンディングは始めて何日経つの?

煩悩:ちょうど10日目。※取材日時点

田渕:ネットの情報とか、Youtubeとかもそうやけど、一番最初にぐっと伸びなあかんと思うねん。今の経過観察としてはどれくらいなん?

煩悩:5日目で進捗が10%乗ってると、プロジェクトの達成率が90%くらいらしくて。だから初動だけで言ったら、今コケてる段階。5日目までのペースだと120%くらいあったんですけど。

けど俺的には、クラウドの期間中にいろいろ発信していく事によって、人の気持ちって変わっていくだろうなと思っていて。それでもし達成しないんだったらきっと俺に問題がある。俺はやっぱそこの問題をもっと愛していきたいんですよ。俺ってこういうところダメなんや、みたいなのが期間中を通して見えてきたらいいなって。

田渕:Mやな。素晴らしきM。問題を愛せるって、気持ちの工夫ができる人。俺なんかはやっぱり、SNSをそこまで勉強してないから、初動でいかんかったらだめやろうなとか思ってまうねん。そう思ってる人がいっぱいおると思う。そういう人の意識に左右されやすいのがSNSやから、そういうのを崩していくんやったら、何かを味方につけな達成は難しいんちゃうかな。

煩悩:うんうん。

 

支援するか/しないか、のボーダーライン

−−田渕さんは、すでにキャンプファイアでご支援いただいてますよね。サポートをする側って、どんな心持ちなんでしょうか?

田渕:一般感覚やと思うんやけど、弾き語りに投げ銭するのって、お金の発生で聴いてるときのピュアな気持ちが変わってしまうかも、みたいな恐怖感がある。クラウドファンディングも一緒で、煩悩君のパトロンになることで、これまでの関係がひずむんじゃないかっていう恐怖があった。でも、関係に変化が起こるのは確実よな。俺自身も新しいことに乗っかってるのは確かやし。
馬券じゃないけど、人はお金を出した瞬間から自分ごとになる。お金を出す人って、何かを返してほしいというより、自分がお金を出していることに酔わせてよ、ムード保ってよ、みたいな感じがあるかもしれない。

煩悩:それは…めっちゃストレートに言ったら「日本っぽいな」って俺は思う。これは馬券じゃないと思うんですよね。CAMPFIREに掲載する文章に、俺は一ヵ所だけ”投資”っていう言葉を使ってたんですよ。そしたら、CAMPFIREの担当の方から「投資という言葉は使えないので変えてください」って言われたんです。それがすごく勉強になった。自分自身も投資じゃないって思っているのに、無意識に使ってしまってたんです。「そんなん書いてた?どこ?(笑)」みたいな。
支援者にリターン(お返し)が”返って”くるっていう言い回しなのも、日本っぽいらしくて。アメリカやと、「What you get?」(何を手に入れられるか?)っていう能動的な言葉だったりして、そもそも根底が違う。

田渕:その感覚を持ってる人はまだ少数派やな。今、「支援するか/しないか」のボーダーラインにおる人いっぱいおると思うよ。変な話、煩悩君が直談判して、「お願いします」って頭下げた瞬間に出す人がいっぱいいると思う。背中をポンと押せれば、出してくれる人は必ずいる。
CAMPFIREのサイトを見るだけで、みんなの心に「するかな、しないかな」っていう選択肢が生まれてるやん。それで「せんとこ」ってすぐしまっちゃう人もいれば、思案する人もいる。そういう選択が見る人に生まれてるってだけでもおもしろい。俺は決めるまでに1日くらい行ったり来たりしたかな。なんか…癪やなって思ったから(笑)。

煩悩:そりゃ癪ですね。

田渕:「なんで俺が清水煩悩に金出すの?」って(笑)。でも一方で、これやってみたらおもろいかなって。

 

新しいことへのハードルと、東京

−−田渕さんが最近始めたことについて、お聞きしたいです。

煩悩:田渕さんが最近やってた『どこの誰かもわからないあなたに贈る詩』(田渕徹ワンマンライブの予約特典)を見たとき、僕がクラウドファンディングを始めたように、田渕さんも新しいことを始めたんだなっていう意識があって。
最近は紙に書いた詩を、こういう道とか駅とか、不特定多数の人が見れるところでばらまいていますよね。とても感化された。多分、僕がクラウドファンディング始めたきっかけの数パーセントには入ってると思う。最高やなあって思った。

田渕:あれは、2018年の年末に風知空知でワンマンするってなった時に、+αで特典みたいなのをつけてやったらおもしろいかなと思って。歌詞は書いたことあったけど「詩」は書いたことなかったし。

煩悩:ほんまに思い付き。

田渕:そう。思い付きで、書いてみよって思ったらめちゃくちゃ大変で。でも、みんな喜んでくれた。なんかね、歌詞ってどうしてもリズムとかメロディにはめるから、もうニコイチみたいなもんやけど、詩の場合はわりと自由。詩のリズムと唄のリズムを比べると、詩のほうが変拍子が使えるな、とかがおもしろかった。Aメロ、Bメロ、サビの流れでいかんでもええな、みたいな感覚。

煩悩:分かります。ちなみに、そこからいろんな場所にばらまこう、っていう発想に至ったのはどうして?

田渕:あれな、暇やってん。俺の平日知らんやろ(笑)。仕事から帰ってきたらYoutube観ながら寝てるっていう流れやねん。

煩悩:その中で、「詩を置く」っていう方向に行ったのは、暇やった以外になんかありそうな気がするんやけどなあ。

田渕:いや……ほんまに、暇やった。でも、俺も俺なりに自分を知ってもらう方法論とかいろいろ考えてて。そのやり方がめっちゃ下手くそやし不器用で、あんまりいろんなアイデアはないんやけど。ただ、なんでもエゴサーチしてリツイートじゃなくて、探してもらわなきゃあかんのかなと。”知ってもらい方”も大事やなって思って。

 

煩悩:田渕さんが詩を配ろって思ったのも、俺がクラウド始めてるのも、東京におるからっていうのもあると思う。例えば、田渕さんがやってることも田舎の駅で詩置いたら見つかりづらいじゃないですか。これこそ、東京におるからやれてることで。

田渕:受信環境ができてるよな。

煩悩:うんうん。東京は周りの町に比べて本の消費量が高かったりして、探求心の強い人が集まってる感じ。だから、詩を置いたり、その詩にハッシュタグついててインスタで拡散したりとか、ぴったりで最高やなあって。

田渕:街にやられてる感じはあるよね。東京はつながりや、しがらみがないし、住んでる人も吹けば飛ぶような人たちがいて心地がいい。それに、つねに新しいことが生まれているから、新しいことへのハードルが自分の中で下がっているのも、いいなあと思う。

interviewer: Yamaguchi Nanako,Naito Manabu

 

 

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来年、清水煩悩は3rdAlbumをリリースする予定です。今回はそのレコーディングを〈天の国〉と呼ばれる奈良県天川村で行い、「まほう」という楽曲のミュージックビデオを雪山で撮影する為に、本プロジェクトを立ち上げました。支援を通じて様々な人を巻き込みながら、完成度の高い作品を皆様にお届けしたいです。


https://camp-fire.jp/projects/view/198665

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唄う雑種人 / 引き語ラーとグラサンズ
田渕 徹

まだまだ続くオープニングテーマ。あらゆる童貞の喪失を求め旅は続く。今だ地に足つかず。しかし空は飛べず。重力と無力を感じながら、ギター片手間に大きなお世話を唄います。ウェルカムモードでよろしく★
https://tabuchitoru.tumblr.com

稀代の変哲
清水 煩悩(Shimizu Bonnou)

1992年生まれ、和歌山県和歌山市出身。2016年から活動をスタート。現在は2019年9月20日に103歳でこの世を去った“台湾独立運動のゴットファーザー”こと革命家・史明氏が開業した池袋の中華店・新珍味に居住している。

2016年11月、J-WAVEラジオSPARKにて水曜日のカンパネラ・コムアイに「天才じゃない?」と賞賛される。その後、2017年3月に自主制作盤『みちゅしまひかり』を発売、同年には奇妙礼太郎主催ライブ〈同じ月を見ている〉に出演。
2018年4月にP-VINE流通協力のもと、2ndアルバム『ひろしゅえりょうこ』がSNEEKER BLUES RECOREDSから全国リリースした。同年12月には小泉今日子がポップアイコンを努めるFODオリジナル音楽番組「PARK」でTV初出演を果たす。

2019年1月、下北沢 風知空知にてMusicVideo先行上映会&トークショーと題して製作関係者が一同に会したイベントを開催。その後、同年の秋に奥多摩の森で「まほう」「リリィ」の2曲を収録、むこうぎしサウンドのプロジェクトとして公開される。現在は新アルバム・MV制作のために150万円クラウドファンディングを実施中。それと連動し、10月からradioDTMの公式サイトで対談企画『煩算』を連載している。同月、坂本龍一がナビゲートするスペシャル・プログラム。2か月に一度、オンエアしているJ-WAVE「RADIO SAKAMOTO」にて、奥多摩の森で2曲30分一発録音された清水煩悩のライブビデオ「まほう」「リリィ」が紹介される。

Twitter: https://twitter.com/shimizubonnou

Instagram: https://www.instagram.com/shimizubonnou/

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